企業探訪(19)
株式会社ヤクルト本社 富士裾野工場
リポーター:中村まり
「人も地球も健康に」生命科学の追究を基盤とし健康で楽しい生活づくりに貢献
予防医学という観点から、腸を健康に保つ乳酸菌に着目し、世界に先駆けて乳酸菌飲料を世に送り出した株式会社ヤクルト本社(以下ヤクルト)。ここ数年注目されるプロバイオティクスの考えを、75年以上も前から続けてきました。そのパイオニアとしての企業理念や、微生物研究の成果を活かした環境保全活動などについてお話を伺います。
工場では最新技術を用いた生産機器と製品検査設備を導入。製造工程の一部をお客様の目でご確認いただく工場見学も随時行っています
撮影/コサイワジュン
プロバイオティクスの先駆け「ヤクルト」
21世紀の健康キーワードとして知られるプロバイオティクス。腸内菌のバランスを改善し、人に良い働きをする生きた微生物のことで、乳酸菌やビフィズス菌はその代表的なものです。これらの優れた力に1930年代から着目し、生きたまま腸に届く乳酸菌を含む飲料を開発したのが、ヤクルトの創始者、代田稔博士です。
代田博士が少年時代を過ごした明治から大正にかけて、日本はまだ豊かとはいえず、衛生状態や栄養状態の悪さから感染症で命を落とす人も少なくありませんでした。そのような状況に胸を痛め、病気にかからないようにする「予防医学」を志し、微生物研究に着手した博士は、乳酸菌が腸内の悪い菌の働きを抑えることを発見。研究の末、世界で初めて、生きたまま腸に届く乳酸菌の強化培養に成功します。
それが、「乳酸菌シロタ株」です。
「胃酸はpHがとても低く、たいていの菌が死んでしまいます。そのなかから生きて腸に届く菌を探すため、かなり年数をかけ、何千、何万という菌株を一つひとつ調べていったそうです」(富士裾野工場工場長 友松直樹さん)
こうして生まれた乳酸菌を一人でも多くの人に摂取してもらうため、安価でおいしい飲料として1935年に製品化されたのが、日本を代表する乳製品乳酸菌飲料「ヤクルト」です。
優しい甘酸っぱさが魅力の味も、ここまでたどりつくにはかなりの苦労があったそうです。「ヤクルト」の原液自体はかなり酸味が強く、それを飲みやすくするためにシロップなどを加えているのですが、今飲まれている味に仕上げるまで、何度も何度も試行錯誤を繰り返したのだとか。人々の健康を守りたい、多くの人に飲んでもらいたい、という思いが、小さな一本にぎゅっと詰まっているのですね。
製造室を案内していただきました。ミルクに乳酸菌やビフィズス菌を入れて発酵させるタンクや、調合タンクがずらりと並んでいます
ヤクルト誕生のエピソードや、ヤクルトならではの環境保全活動などについてお話をうかがいました
時代とともに変わっていったヤクルト容器の模型が展示されていました。現在のポリスチレン容器になったのは1968年。最新の技術をいち早く取り入れました
昭和20年代後半、発売当時のヤクルトはこのような形のガラスびんに入っていました
ヤクルトの原点「代田イズム」とは?
ヤクルトの製品づくりの根幹には、「代田イズム」と呼ばれる代田博士の理念が受け継がれており、それは製品づくりだけでなく、すべての事業の礎になっています。
「代田博士は、病気になってから治すのではなく、病気にかからない体を作る『予防医学』が重要だと考えました。また、栄養を吸収する腸を丈夫にすることが、健康で長生きにつながるという『健腸長寿』の考え方や、『誰もが願う健康を誰もが手に入れられる価格で』提供することを提唱しました。これがヤクルトの代田イズムです」(友松工場長)
「ヤクルト」が発売された当時、清涼飲料は安価ではありませんでした。しかし、「ハガキ一枚の価格で買えるような飲み物を作ろう」ということで、誰でも手の届く価格が設定されたのだそうです。
また、ヤクルトレディによる宅配も独自のシステムです。これも、ヤクルトレディが直接お客様に商品をお届けすることで、代田イズムに基づいた『予防医学』の重要性や、商品の科学性、プロバイオティクスの考え方などを、お客様にお伝えしたいからなのです。
こうした“思い”はやがて海を越え、「ヤクルト」は世界中で親しまれる飲料となりました
「ヨーグルトのような発酵乳は昔からありましたが、乳酸菌そのものを生きたまま飲む“乳酸菌飲料”というものはありませんでした。最初はまったく新しい概念の商品だったのだろうと思います」(友松工場長)
現在、「ヤクルト」は日本も含め32の国と地域で販売されているそうです。昨年6月には全世界で一日あたり3000万本以上が飲まれたそうですよ。すごいですね!
80年前、代田博士が発見した乳酸菌が、どんどん広がって、いま世界中の人々の腸の健康に役立っている。とても夢のあるお話だなと思いました。
「人も地球も健康に」ヤクルトの環境対策
人が健康であるためには、人だけでなく周りのものすべてが健康でなければならない。これが、ヤクルトが掲げるコーポレートスローガン「人も地球も健康に」に込められた思いです。製品を通じて、人々の健康を守りたいと願うだけでなく、地球環境全体の健康を視野に入れ、環境活動にも力を入れています。
その一つであり、ヤクルトならではの取り組みとして注目されているのが、ヤクルト容器を使った水浄化システム(ヤクルトA&G水浄化システム)です。これは、ヤクルト容器の底を抜いたもの(ヤクルトろ材)を接触材※1として、排水処理施設の接触酸化層内にランダムに沈め、そこに棲みつく微生物の力によって水を浄化します。
「容器のこの複雑な形によって、汚水の流れや空気の流れが多様に変化するんです。そのおかげで、くびれの凸凹の部分にたくさんの種類の微生物が棲みつき、水質汚濁の原因となる有機物を効率よく分解消化することができるのです」(友松工場長)
自社工場の排水処理は、このシステムを利用して高度浄化しています。ここ富士裾野工場も、2005年からこのシステムを導入し、BOD※2500~700mg/rの排水を2mg/r以下(BOD除去率99%)まで処理できるようになりました。また、従来の活性汚泥処理法で発生していた余剰汚泥はほぼゼロになり、ランニングコストも半分程度と、省エネにも寄与しています。
ヤクルトA&G水浄化システムは、工場排水の処理に使われるだけでなく、国や自治体が実施する河川や池の水浄化事業にも採用されています。
容器の形は、飲みやすさを考えて設計されたもので、それが接触材として有効な形だったのは偶然なのですが、飲料として人々を健康にし、容器を使って地球を健康にするという二つの役割を担っている姿は、まさにヤクルトの企業理念そのものだなと感動しました。
そのほかにも、工場から排出されたプラスチック容器を資源としてリサイクルしています。その一部を利用して定規やカードスタンドなどのプラリサイクル品を作り、工場見学の皆さんにお持ち帰りいただいているそうです。どれもが、大切な資源を無駄なく活用し、環境負荷を軽減する素晴らしい取り組みです。
※ 1 汚れを分解する微生物を繁殖させるもの
※ 2 微生物が水中の有機物を酸化・分解するときに消費する酸素量。この数値が大きいほど水質が汚濁している。
光学顕微鏡やフーリエ変換赤外線分光光度計といった最新の機器を使い、徹底した品質管理が行われています
ヤクルト容器がさまざまな製品に生まれ変わります。手前のカードスタンドが6 本分、右奥のペンスタンドが30本分です
手にフィットするように作られた容器の形が、水浄化に意外な効果を生むこととなりました
こちらはレーザー回折式粒度分析測定装置。この装置で乳タンパクの大きさを測定し、製品の安定性を調べます
工場内にある排水処理場。いくつも並んだ浄化槽の底にヤクルトろ材が沈められています。その総数は約73万本。微生物の力を借りて水をきれいにします
夏の電力事情に配慮した多様な節電対策
6年前に導入されたNAS電池。工場の約3分の1の電力をまかなうことができるそうです
東日本大震災による福島第一原発事故の影響で、電力が大幅に不足しています。富士裾野工場では、こうした電力事情に配慮したさまざまな節電対策をとっています。
なかでも大きな対策が、NAS電池と呼ばれる蓄電池の導入です。
「これはナトリウムと硫黄を使った蓄電池で、従来の鉛蓄電池に比べて体積や重量が3分の1程度とコンパクトになっています。これに夜間の電気を蓄えておき、昼間に使用することで、日中のピーク電力を抑えることができるのです」(友松工場長)
NAS電池は、出力変動の大きい太陽光発電・風力発電と組み合わせて出力を安定化させることもできます。工場内では、ソーラーパネルによる太陽光発電や風力発電も行っており、それらをより有効に活用することができるのです。
割安な夜間電力を利用するのでコストダウンにもなりますね。
「その他にも、人感センサーを配置して無駄な照明の点灯をなくしたり、インバーターを使って効率よく電気を使用することで、かなり節電効果をあげています」(友松工場長)
震災からの復興今後も人々の健康のために
ヤクルトは福島と岩手に工場があり、それらは東日本大震災で大きな被害を受けました。しかし、震災翌日から、タンクローリー車に飲料水を積載して被災地に輸送。福島・茨城を中心に、避難所や病院を1日何度も巡回しています。また、ミネラルウォーターや清涼飲料合計30万本を提供しました。
「そんななか、被災地のお客様から『ヤクルトを飲みたい』という声をいただいたのです。避難所で缶詰になっているような環境ですと、運動不足などもあり、お腹の調子がよくない方が出てくるようで。大変うれしかったのですが同時に、販売拠点も被害を受けているためすぐ手配するのが難しく、ご迷惑をおかけして申し訳ない気持ちでした。
しかし、社内一丸となって対応しました。全国の工場が連日フル稼働で、東北の二つの工場をカバーするため、夜間もラインを動かし商品を供給したのです」(友松工場長)
順次商品を手配し、避難所や販売店に届け、その先々でたくさんのお客様から「こういうところでヤクルトが飲めると思わなかったのでうれしい」「お通じが戻ってよかった」といったお話をいただくたびに、感謝の気持ちでいっぱいになったそうです。
被災地ではまだ避難所暮らしを続けざるを得ない方が多く、夏に向けて感染症などにかかるケースも増えていると聞きます。そういうときこそ、ヤクルトの出番。「人々の健康を守りたい」という思いが力を発揮するに違いありません。
ヤクルトでは、これからも地球環境全体の健康を視野に入れ、すべての事業活動を通じて、世界の人々の健康で楽しい生活づくりに貢献していくそうです。
それを支える大切な商品を生産する工場でも、高度な品質管理と衛生管理を徹底し、環境保全にも配慮した製品づくりに取り組んでいます。
ヤクルトの代表的な生産拠点であるここ富士裾野工場では、HACCPとISO9001を統合したヤクルト独自の厳しい品質管理システムの基準を設け、最高の品質確保に取り組んだ新しいモデルとして、高品質で安全、地球環境にも優しい製品づくりに邁進しています。
「わたしたち工場の使命は、確かな安全性を持つ製品を毎日確実に生産するということです。これからも、皆さんの健康のために頑張っていきたいと思います」(友松工場長)
今後は環境への取り組みとして、ヤクルトA&G水浄化システムを海外事業所での工場排水処理施設へ導入するなど、海外でも普及を進めていくそうです。
わたしたちと地球の健康を支えてくれるヤクルト。今回いろいろなお話を伺って、とても頼もしい企業だなと実感しました。
株式会社ヤクルト本社 富士裾野工場
所在地:静岡県裾野市下和田字十三郎653-1
設立:1986年
株式会社ヤクルト本社
所在地:東京都港区東新橋1-1-19
創業:1955年
■品質管理で普段から心掛けていること
企業理念の一部に、「世界の人々の健康で楽しい生活づくりに貢献します」とあります。私は、この思いを製品に込めて、品質管理に取り組んでいます。製品の品質が、設計された規格内でも、日々のわずかな変動も見逃さないよう気を配り、生産工程に何か不備がないかチェックし、工程改善に努めています。健康を願われるお客様に、形には見えない安全・安心を提供できるように日々の品質管理を実践しています。(品質管理課 坂口能崇さん)
地球にやさしく、安全で最高の品質を作り込むことが工場の使命だと語る友松工場長
探訪後記
ヤクルト容器の中央部が持ちやすくくびれているのは、ゆっくりと味を楽しみながら飲めるようにという理由からだそうですが、この形が水浄化システムの決め手となったのは意外でした。システムを見学してさらにびっくり。工場排水を処理する浄化槽の中で、何匹もの魚が元気よく泳いでいるんです。ここまで水質を良くできるんだなと、とても感動しました。
中村まり
中村まり「めざましテレビ」など情報番組のリポーターや各種企業のCMキャラクターを務める。持ち前の好奇心と行動力を活かし、現在TV・ラジオなどのリポーター、キャスターとして活躍中。















