企業探訪(18)
宝積飲料株式会社 志和工場
リポーター:中村まり
独自の技術でオンリーワン商品を生み出す研究開発提案型企業を目指して
1935年(昭和10年)、地場のラムネ屋として創業、時代のニーズや人々の嗜好に合わせ、オリジナリティあふれる商品を展開してきた宝積飲料株式会社。昨年、創業75周年を迎え、4月からは新たなステージで事業を展開しています。今回は、ラムネ屋から清涼飲料メーカーへ躍進を続けてきた社のあゆみや、独自の商品開発についてお話を伺いました。
志和工場には6本のラインがあり、消費者や得意先のニーズやリクエストに、フレキシブルに対応しています。
試行錯誤と挑戦が続いた創業時代
灘、伏見と並ぶ日本三大名醸地のひとつ、東広島市西条。この地で育まれた豊かで良質な水を使い、長年、おいしく安心して飲める飲料を作り続けているのが、昨年創業75周年を迎えた宝積飲料株式会社さん(以下宝積飲料)です。
1935年、創業者の宝積弥作は知人の事業を受け継ぎ、宝積飲料工業所を設立。地場のラムネメーカーとして会社をスタートさせました。
始めは試行錯誤の繰り返しだったそうです。資金調達も難しく、機械も中古の手詰機だけでした。それでも、ラムネのほかレモン水、イチゴ水など新しい商品を充実させ、会社は少しずつ軌道に乗り始めました。しかしそのとき、地場の小さなラムネ屋ばかりだった市場に、大きな変化が訪れます。地元の大手酒造メーカーが参入してきたのです。「その会社は、ヨーロッパ製の最新鋭の機械を導入し、ラムネの製造販売を始めました。同じレベルの機械を導入したくても、まったく手の届かない値段だったので、ずいぶんと悔しい思いをしたそうです」(宝積良忠社長)
最終的には資金を貯め、米国式の自動混合機(セコリン)を導入することになりましたが、それまで、バルブの調節など既存の機器に手を加えたり、ラムネ製造機器の専門家を呼んでさまざまなアドバイスを受けたりして、品質向上を重ねていったのだそうです。
当時使っていた1本手詰機を拝見しました。1本1本、試行錯誤を続けながらのラムネづくり。今の宝積飲料の礎をつくった貴重な詰機です。
米国式自動混合機(セコリン)の前に立つ創業者・宝積弥作(昭和30年頃)
昭和40年代当時の味を忠実に再現した『パレードミルクコーヒー』『パレードミルクセーキ』
創業初期の主力機として活躍したラムネの1本手詰機(再生復元)
大手に負けない自社商品の開発に挑戦
宝積飲料ならではのさまざまな商品が生まれたエピソードや、商品開発の苦労話などを宝積良忠社長からお聞きしました
ラムネだけではなく、独自の自社商品を開発すること。市場での生き残りをかけ、宝積飲料はさまざまな商品の開発に挑戦していきました。なかでもミルクコーヒー、ミルクセーキは、開発までに何度も試行錯誤を繰り返し苦労を重ねた結果、「おいしい」と地元でも評判の商品に仕上がりました。
1950年代後半、外資系の大手メーカーが市場に参入し、市場が活性化し始めると、全国の中小飲料メーカーが集い、共通のブランドを立ち上げようという動きが起こります。コストダウンを目的に、大阪を拠点に数社で統一商品を扱っていたパンチ会の大川会長とともに、その呼びかけをしたのが先代の宝積神州男でした。1965年、全国各地70〜80社からなる『パレード会』は、コーラ、オレンジジュース、グレープジュースをはじめ、バラエティ豊かなラインナップの商品を展開しましたが、特に、ミルクコーヒーとミルクセーキはパレードブランドを牽引する商品として、全国に宝積飲料の名前と存在を知らしめることとなりました。
「今でも年配の方から『宝積さんといったらパレードがあったよな』とお声をかけていただくことがあるんですよ。うれしいですね」(宝積社長)
一昨年、缶入りで当時の味を再現したミルクコーヒーとミルクセーキを復刻。売れ行きは上々だそうです。当時の味を知っている人にも、知らない人にも、きっと“懐かしい味”がするのでしょうね。
独自の技術とオンリーワン商品
時代は移り変わり、ラムネ屋から全国的な清涼飲料メーカーへ飛躍をとげてからも、宝積飲料は常に、独自の技術でほかにはないオンリーワンの商品を開発してきました。そのなかでも、ヒットしたのが『ためして寒天』です。
「これには『スポリカライト』という前身の商品があるんです。低カロリーのスポーツドリンクで、一般的な商品の約20%のカロリーしかありません。東広島は老人ホームが多く、そこの栄養士さんから“糖尿の方でも飲める低カロリーの飲料をつくってほしい”と依頼され開発したものです」(宝積社長)
その後、嚥下困難な方向けに、とろみのついた『とろみスポリカ』を開発します。このとき、ゲル化剤として採用したのが寒天でした。
「商品を開発してからしばらくして、あるテレビ番組を見ていたら、寒天の効能について取り上げていました。体脂肪、コレステロール値、中性脂肪、血糖値、血圧などを改善する優れた食材であることが紹介されていたのです。そこで、『とろみスポリカ』をベースに、寒天を使った一般の消費者向けの健康飲料を開発できないかと考えました」(宝積社長)
こうして生まれたのが『ためして寒天』です。当時は健康食品ブームの走りで、テレビ番組で取り上げられた食品は、次の日、店頭からなくなるという現象が起こっていました。別の人気番組でも寒天が取り上げられるという絶妙なタイミングで商品が完成。予約注文が殺到し、かつてない売れ行きのヒット商品となったのです。
宝積飲料ならではのさまざまな商品が生まれたエピソードや、商品開発の苦労話などを宝積良忠社長からお聞きしました
水の郷100選にも選ばれた東広島生まれの『アルカリイオンの天然水』は、2010年、モンドセレクション金賞を受賞しています
テイスティ&リフレッシュ生活に潤いを与える商品の提案
人気のハイボールがノンアルコールに。9キロカロリーとカロリーが低めなのもうれしいですね
オリジナリティあふれる、さまざまな商品を手掛けている宝積飲料ですが、どのようなコンセプトで商品開発をなさっているのでしょう? 社長から返ってきたのは「おいしく手軽にリフレッシュ」という言葉でした。
「清涼飲料が生活のどのようなシーンで価値があるのかを考えたとき、気分転換の役割が大きいのではないかと思ったのです。この言葉には、仕事の合間に缶コーヒーを飲んで気持ちをリフレッシュするように、生活に潤いを与える商品を作りたいという思いを込めています。また、清涼飲料は嗜好品ですから、おいしくなければならない。テイスティ&リフレッシュという言葉を掲げ商品開発をしています」(宝積社長)
昨年5月には、そんなコンセプトのもと、ウイスキーハイボール風味のノンアルコール飲料『琥珀色のときめきハイボールテイスト』を開発しました。お酒が飲める人も飲めない人も一緒に、お酒が飲めるときも飲めないときも同じように楽しめる飲料です。「ノンアルコールビールだけではノンアルコール飲料の市場をカバーしきれていないと思ったのです。最近の若い人はビールの苦みが苦手な人も少なくない。そんな消費者層を取り込みながら、いろいろな料理に合うノンアルコール飲料は何かと考えたとき、あがってきたのがハイボールでした」(宝積社長)
ウイスキーは蒸留酒なので、ビールなどの醸造酒に比べると味のベースとなるエキス分が少なく、独特のコクと芳醇な香りをいかに醸し出すかとても苦労したのだそうです。100回以上の試作を繰り返し、開発期間も1年近くかかりました。担当の女性スタッフは「夢にまで出てきた」と語っていたとか。その甲斐あって、発売後の反響は非常に大きいものでした。
「飲食店だけではなく、キャンプやカラオケボックスなど、幅広いシチュエーションに合うという反応でした。また、女性の需要が予想以上に多かったのも驚きです。妊娠中、授乳中など、飲みたくても飲めない体験は男性より女性のほうが多いのかもしれませんね」(宝積社長)
大々的なCMを打っているわけではありませんが、口コミでじわじわと人気が高まっているそうです。
失敗から学んだ厳しい品質管理「生かされて生きている命」
こうした商品がつくられる製造現場では、どのような品質管理が行われているのでしょうか。
2003年、志和工場はISO9001を認証取得しました。
「弊社は過去に一度、品質に関する大きな事故を経験しています。その経験をきちんと生かしていく仕組みが必要だと考えました」(宝積社長)
認証を取得して満足するのではなく、そこからようやく品質管理がスタートする、というのが宝積社長の考えです。しっかり決められた手順をきっちり守って、それを繰り返す。それだけのことですが、実際に始めてみると、当たり前のことを当たり前に徹底してやる難しさを感じる場面が多々あったそうです。
「しかし、それを決められたとおりに実行することを基本にPDCAを繰り返すことで、品質向上につながると信じています。そして、それが結果としてお客様の満足度を高めることにもつながっていくと考えています」(宝積社長)
こうした取り組みの根底には、会社全体の経営理念である「生かされて生きている命」という考え方があるのだそうです。
「この理念は、周囲に対する感謝の気持ちを表しています。会社というのは存在価値があるからこそ存続できる。周りの役に立たなくなったら存在価値はなくなってしまう。常に周囲と、生かし生かされる関係なんです。そういう関係の中で、いつも相手に対して感謝の気持ちを忘れない、という思いが、この言葉には込められています」(宝積社長)
『たとえ100万本に1本の不良であっても、そのお客様にとっては100%の不良である』。
工場の入り口にはこのような標語が掲げられ、徹底した工程管理が行われています。すべての原料となる水に始まり、パッケージの最終段階に至るまで、90以上の厳しいチェックポイントを通過した製品だけが、宝積飲料の製造品として出荷されます。
環境に対する取り組みにも力を入れており、2006年には、ISO14001を取得。「環境方針」を掲げ、毎年原単位を少なくするよう目標を設定しているほか、5年前にボイラーの燃料をA重油から液化天然ガスに切り替えるなど、社をあげて取り組んでいます。環境にもやさしく、コストも削減。素晴らしいですね。
「まだまだやらなければならないことはたくさんありますが、できるところから一つずつ始めています」(宝積社長)
製造設備の万全な保守管理と徹底した品質管理から、安全・安心な商品がつくられます
2005年、ボイラー更新と同時に導入された志和工場のLNGサテライトタンク
■品質管理で普段から心掛けていること工場の品質管理は、お客様へ安全・安心な商品をお届けすることを第一に心掛け、「たとえ100万本に1本の不良であっても、そのお客様にとっては100%の不良である。」を念頭に、ISO9001に基づく仕組みとHACCPに準じた品質管理体制の中、調合液検査からスタート時の工程確認、製品の分析や微生物検査、出荷前検査及び工程の一般衛生管理まで、品質管理担当者が一貫して確認することで製品の責任品質に寄与しています。
(製造部工場長 二本垣昇さん)
■商品開発で普段から心掛けていること商品づくりは発案時点から「どのような方が」「どのような動機で購入され」「どのような場面で消費されるのか」をしっかりとイメージすることを心掛け、購入場所や流通チャネルも考慮した味作り・パッケージ表現に注力しています。原料・商品の安全性確保は必須条件とし、調合毎に原料を使い切りできるように配合を工夫し、使用期限切れ廃棄ロスによるコスト面・環境面での負荷低減に寄与する活動も行っています。
(商品開発室 有重博文さん)
新しいステージでさらなる成長を
宝積飲料株式会社 志和工場
所在地:広島県東広島市志和町
操業:1982年
宝積飲料株式会社 本社
所在地:広島県東広島市西条
創業:1935年
2011年4月1日から宝積飲料は、株式交換によりアシードホールディングスのグループ企業として新しい道を歩み始めています。
「10年、20年先のことを考えて決断しました。安定した職場で、社員も安心して働くことができます。今後は、グループの一員として安定した業績を出していかなければならないので、今までのやり方を大きく変えなければならないこともあると思いますが、それ以上に期待しているところも大きいです。新しいステージで、いろいろな人との交流があるでしょう。小さな会社ですが、これまで培ってきたさまざまなスキル、事業ノウハウなどを、社員のみんなが活かし、もっともっと成長してくれればいいなと思います」(宝積社長)
外部の方からいろいろな意見をもらうということは、それなりに刺激もあり、ぶつかりあうこともあるかもしれません。しかし、それがグループのため、これからの宝積飲料のため、社員一人ひとりのためになっていくのかもしれませんね。新しいステージでの、皆さんのますますのご活躍を楽しみにしています。
探訪後記
ノンアルコール飲料『ハイボールテイスト』の、しっかりとした香りや飲み応えに驚きました。あまりにも本格的なので、私のコップだけアルコール入り!?と思うほど。妊娠してから授乳が終わるまでお酒をずっと我慢しましたが、同じような境遇の女性にとって、これはとてもうれしい商品ではないでしょうか。おいしくて、つい陽気になってしまった取材でした。
中村まり
中村まり「めざましテレビ」など情報番組のリポーターや各種企業のCMキャラクターを務める。持ち前の好奇心と行動力を活かし、現在TV・ラジオなどのリポーター、キャスターとして活躍中。















