消費者の節約志向が強まる中、少子高齢化、デフレなど、清涼飲料水を取り巻くさまざまな課題に業界としてどのように取り組んでいくのか、未来を見据えた視点で語り合っていただきました。
[新春対談] 前田 仁 早見 優
前田会長の初夢 清涼飲料業界の今年の展望を語る
前田 仁/(社)全国清涼飲料工業会会長
早見 優/聞き手
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前田 仁 (まえだ ひとし) |
1950年生まれ。1973年関西学院大学経済学部卒業 同年、キリンビール(株)入社 2004年同社執行役員酒類営業本部マーケティング部長 2009年キリンビバレッジ(株)代表取締役社長 現在に至る。 |
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早見 優 (はやみ ゆう) |
日本生まれ、3歳から7歳までグアム、7歳から14歳までハワイで育つ。90年上智大学比較文化学部日本文化学科卒業。82年にデビュー以来、歌手・俳優・DJ等幅広い分野で活躍。92年にはブラジルで行われた地球サミットにNGO団体、地球女性連絡会代表として参加。現在もイベント・トークショー多数参加。 |
1.昨年の清涼飲料市場を振り返って
記録的な猛暑で、前年比103%の生産量増加
- 早見
- 昨年の夏は記録的な猛暑となり、秋をほとんど感じられずに冬になってしまったのですが、清涼飲料市場はいかがでしたか。
- 前田
- じつは、猛暑の前は冷夏の予測がされていました。昨年の4月は、記録的な寒さでしたから。
私どもの業界は天候の影響を受けることもあり、08〜09年と2年続けてマイナスでした。昨年もマイナスだと3年続けてという清涼飲料業界始まって以来のことでしたが、7月後半から猛暑になり、その効果もあって年間で103%ぐらいと予測しています。
猛暑で嬉しい思いをしましたけれども、大きな流れでいうと、少子化や高齢化に伴う市場の縮小が続いていることで、気を緩められません。 - 早見
- 清涼飲料水は、暑いときの方が売れますか。
- 前田
- 私どもの業界はいろいろな商品を持っていますので、炭酸やスポーツドリンクは夏にたくさん売れて、冬場は缶コーヒーが稼ぎ頭です。ちょうどバランスよく、年間を通して商品として揃っています。
- 早見
- 昨年は「食べるラー油」がとても流行りました。海外の友だちから、「食べるラー油って何? 送って、送って」と、たくさんメールが来ました。清涼飲料では、そのようなヒット商品はありましたか。
- 前田
- ここ5、6年のヒット商品では、サントリーさんの「伊右衛門」、コカ・コーラさんの「い・ろ・は・す」などが挙げられますが、昨年のヒット商品といえばキリンビバレッジの「午後の紅茶エスプレッソティー」になりますね。「日経トレンディー」のヒット商品番付でも22位に入りました。
これは紅茶を缶コーヒーのユーザーに向けて出した商品ですが、清涼飲料そのものはなかなか新しいカテゴリーがでないのです。 - 早見
- 今でも、とてもバラエティーに富んでいますね。
- 前田
- 人口の成熟と同じように、私どもの商品のラインナップも成熟しているといえるかもしれません。
- 早見
- 「大人の炭酸飲料」もありましたね。
- 前田
- 健康を気にする方が増えていますので、アサヒ飲料さんが「大人炭酸シリーズ」を発売されたり、キリンビバレッジでもオルニチンというアミノ酸を少し入れた炭酸飲料を「大人のキリンレモン」と称して発売しました。
日常を健やかに暮らしたいというお客様のニーズが強く、清涼飲料も少しずつ流れを変えていると思います。 - 早見
- 昨年は「マイ水筒」が流行りましたが、マイ水筒を持つ人が増えると、清涼飲料業界に影響はありますか。
- 前田
- リーマンショック以降、消費者の節約志向が強くなりました。水筒もそのひとつですが、お茶やお水など、ご家庭で簡単にできるものは影響を受けました。
また、「清涼飲料はこんなに安いのか」と思われるほどデフレが厳しく影響していますから、猛暑で伸びたとはいえ、総需要の縮小は私どもにとっては先行き大きな課題だと思います。
2.11年の全清飲の取り組みと課題
安全・安心への取り組み
- 早見
- 今後の大きな課題ですね。それでは、清涼飲料業界の今年の取り組みと課題について、伺えますか。
- 前田
- 社団法人全国清涼飲料工業会が設立されたのが1955年(昭和30年)です。そのときに「公共の利益と調和のとれた清涼飲料業の発展」「清涼飲料の品質の向上と安全の確保」「健全な消費のための正しい知識の啓発普及」を規定し、踏襲してきています。
安全・安心への取り組みですが、コンプライアンス(法令遵守)として、品質管理、衛生管理、表示に関して講習会を開催し、業界としてレベル向上を推進中です。基礎編である一般衛生管理の講習会の後、HACCPの講習会を行っています。また、表示の間違いを起こさないよう法律の改正や変更などの際、会員企業に情報提供し、かつ講習会なども実施しています。 - 早見
- マイ水筒も流行っていますし、押すと飲みものがキューッと出てくるような自販機があるといいなと思いますが、安全性の問題はあるのでしょうか。
- 前田
- かなりあります。空気中には、目に見えないホコリや雑菌などがあります。お客様が買われてすぐにお飲みになるのであれば問題はありませんが、詰めて持ち帰り、放置しておくとカビが生ずることがあります。
- 早見
- 私はなるべく子供たちに水筒を持たせますが、子供たちはよく洗い忘れるので、「洗ってないじゃないの、カビが…」ということがあります。
- 前田
- ぜひ、清涼飲料を安心してお飲みください。
環境問題への取り組み
- 早見
- 飲料容器はかなり軽量になり、簡単につぶせるものも出てきて、これ以上何が改善されるのだろうと思いますが、環境問題への取り組みはいかがですか。
- 前田
- まず温暖化対策としての業界のCO2排出量ですが、09年度は90年度に比べ1.03(経団連・環境自主行動計画「地球温暖化対策」より)。この増加はPETボトルの内製化(近年は商品製造工場内で製造されることが多くなった)によるもので、内製化を除くと0.98となり、08年度より0.02改善されています。
次に業界の産業廃棄物量ですが、09年度は1340トン、再資源化率99.6%と高い水準を維持しています。また、カーボンフットプリント制度に伴うPCR(商品種別算定基準)に対応できるよう、業界として認定取得に取り組んでいます。
自販機の課題と取り組み
- 早見
- 先日、知人が町を歩いていて、目の前で中年の方が倒れたそうです。初めての地域で「救急車を呼ばなければ!でも住所がわからない」というときに、ふと自販機を見たら住所が書いてあり、とても役に立ったと話していました。
- 前田
- 室内と屋外を合わせて、全国で250万台ぐらいでしょうか。これだけ普及してくると、町のインフラにもなっており、災害時には無料で飲みものを提供できるストックポイントとして使うこともできます。 ただ単に物を売るだけではなく、インフラとしても機能整備されていくと、かなり社会貢献できると思います。
その自販機の取り組みですが、省エネに向けた自主行動計画を促進させており、09年実績は05年比27.5%減と総消費電力削減を実現しました。
そして、安全据付を徹底させていくために「第一回自動販売機据付講習会・検定試験」を全国9会場にて実施しました。今年の2月に2回目を開催する予定です。また今年より、グリーン購入法特定調達品に指定されることを受けて、判断基準や配慮事項を検討しました。
中小会員へのサポート
- 早見
- 中小企業への取り組みはいかがですか。
- 前田
- 中小会員においては、「地サイダー」を中心に、地域ならではの特徴を活かした商品が注目を集めています。そこで合同での展示会への出展や、合同記者会見の開催、また昨年の7月にはショッピングサイトで「地サイダー特集」なども行い、活性化を後押ししています。
- 早見
- 地域色を活かしている点がいいですね。
消費者啓発の小冊子「みんな一緒に、おいしく、楽しく!」と全清飲HP「ドリンクキッズ」が(財)消費者教育支援センターが選ぶ2009年『消費者教育教材優秀賞』をダブル受賞しました。「みんな一緒に・・・」をさらに広げるべく全国4000ヵ所に送付するとともに、小学校の先生が活用できる「学習シート」を新たに制作しHPにアップしています。
清涼飲料の正しい取り扱いや環境問題への取り組み、歴史や業界豆知識を多くの方に知っていただくため、HPで「のみもの検定」をスタートしました。毎月、問題を更新して、成績上位の方には話題の「地サイダー」をプレゼントしています。
自販機のさまざまな取り組みを紹介する「飲料自販機なるほどBOOK!」の改訂版を発刊。HPにも掲載しています。
全国の地方新聞社が出資し運営している「47CLUB」のショッピングサイトで、「地サイダー特集」が展開されました。
3.さらなる発展へ|成熟社会に向けたチャレンジ
もっと高く、もっと深く、可能性を追求
- 早見
- 今年の目標やビジョンを伺います。
- 前田
- 大きな流れでいうと、日本の清涼飲料マーケットは、少子高齢化で需要が減ってきています。高齢化は胃袋が小さくなりますから、若い人より食べる量、飲む量が少なくなります。総需要に影響を及ぼしてくる中でどのような新しい提案ができるか、ひとつの課題だと思います。
もうひとつは、日本全体を覆っているデフレに対して、お客様は安い物はOKと喜ばれますが、回り回ってご主人の給料も減ってくるわけですね。 - 早見
- そう思います。
- 前田
- そうすると日本全体が縮小していく。新しいことに投資できなくなったり、いい人材を雇うことができなくなる。どこかでデフレの波を止めなければいけない。それには新しい価値、お客様にとって今まで見たことのないものを開発して提案していく努力が必要だと思います。
価格競争だけを続けていると、お金も含めて新しいことに対するチャレンジのエネルギーが出てこないのです。びんから缶、缶からPETになったようなイノベーションや、炭酸飲料から始まり、果汁が流行り、缶コーヒー、お茶、水が流行ってきたように、どんどん新しいカテゴリーが創造されてきたのですが、そういったことを業界挙げて取り組んでいくことが必要です。 - 早見
- 私はバブルの時代を経てきたので、皆さん元気がないなと感じます。
- 前田
- かつてのようなバブルは想定しにくいし、お客様も成熟した消費を経験した後で、賢い消費というのでしょうか、環境だ、節約だと世界的な潮流として起こっています。新しい消費形態に対して、私どもに何ができるのかということが大きな課題です。
- 早見
- バブルの時代がよかったとは思いませんが、活気がありましたね。先日香港に行きましたが、みんなすごく元気ですね。「何でこんなにエネルギッシュなんだろう」と懐かしい言葉が出てきました。
- 前田
- 私の会社も中国に出ていますが、一人ひとりが商売を興すことに情熱を燃やしています。ベトナムも、タイもそうです。この対談の前にマレーシアの人と会いましたが、若くてエネルギーにあふれていて、こちらが圧倒されます。
- 早見
- 本当にそうですね。
- 前田
- 平均的なレベルの消費生活で、驚くほどのお金持ちもいないかわりに貧困層も少ない。そういう国の消費者を相手にしているのですから、清涼飲料業界も相当厳しいです。
- 早見
- 会長がおっしゃったように価格競争だけではなく、これからのニーズを考えた商品や売り方、マーケティングが大きなテーマになるのでしょうね。
- 前田
- 私は縁があって食品業界に入り、ずっとおりますが、日本が世界に誇ることのできる食文化があると思います。私もそれほどたくさん海外へ行っていませんが、日本という国は南洋のように放っておいてもバナナが食べられる地域ではなく、耕作地も少ない。しかし多用な加工食品があり、日本古来の物だけではなく、世界のすべての物を取り入れてアレンジして、多彩な食文化が日本各地に長く残っています。そういう食文化を私は大切にしたいと思います。価格競争だけにはまってしまうと、長年培ってきた多彩で豊かな、世界に誇ることのできる食文化がだんだん先細りしてくるのかと思っていて、危惧を持っています。
- 早見
- 前田会長の夢はございますか。
- 前田
- 全清飲の会長の立場としては、環境対策、安全・安心の衛生面に対する要求はますます高まっていくことは間違いないので、会員の方たちも含めて、高度な技術をしっかりと全清飲としてもフォローしていきたいですね。全清飲は、大手も中小も一緒になった珍しい業界団体ですが、それぞれが競争をするのではなく、それぞれが持っている役割があります。中小の会員は地域に根ざした需要を地域社会の中でしっかり還元してフォローしていただく仕事があり、大手は全国に同じようなブランドを同じように均一に発売する役目もあります。お互いに切磋琢磨してこの業界が発展していければいいと思います。
個人的には、デフレや少子化など苦しい状況がありますが、日本という国が成長期から成熟期に変わっていく、今はたぶん、その生みの苦しみだと思います。その中で、バブルのような時代を願望するのではなく、新しい成熟社会に向けた新しいチャレンジを産業界挙げて取り組んでいく必要があります。
私の親しい友人が遺した言葉に、「今あるものをもって今日行ったらだめなのだ。もっと高く、もっと深く、われわれが見ていない夢が、もっともっと可能性が追求できる」というのがあります。続けていくことで、今は見えていないけれども、何か見えてくるものがあるかもしれないと思います。 - 早見
- すてきですね。
- 前田
- 私はビール会社に勤めていましたので商品開発の仕事が長く、商品を開発するのは楽しいと思います。今は社長で、なかなか商品開発に口を出せませんが、こういう閉塞感のある時代に、お客様が今までに味わったことのない商品や見たことのない商品を開発するのは楽しいだろうと思いますね。
- 早見
- クリエイティブな仕事は楽しいですね。
- 前田
- 早く社長をやめて、また商品開発マンに戻りたいというのが私の夢かもしれませんね。
- 早見
- 今年も、全清飲と前田会長にとってよい年でありますように祈念しております。

















