REPORT-15 / 内藤聡子の企業探訪
ネスレ日本株式会社 島田工場
「Good Food, Good Life」栄養、健康、ウエルネスを世界中の人々に届けたい
コーヒー飲料を始めとする飲料事業のほか、食品、ニュートリションなどさまざまな事業を展開するネスレ日本株式会社。食を通じた人々の生活向上への願いや、徹底した品質管理、環境に対する取り組みなどについてお話を伺いました。
島田工場には2本のペットボトルコーヒーラインがあります。2号ラインの900 ミリリットルペットボトルコーヒーの製造スピードは、日本最速レベルだそうです(写真は2号ライン)
体が健康になるだけでなく心や生活も健やかで豊かに
「1 万種類のネスレ製品が毎日10億個も販売されているんですよ」と嘉納さん
今回は、スイスに本社を構える世界最大の食品メーカー、ネスレの子会社である、ネスレ日本株式会社さん(以下ネスレ日本)を訪問しました。ネスレの企業理念は「Good Food, Good Life」。日本だけでなく、グループ全体のコーポレートスローガンです。
「この言葉には、おいしく、健康に配慮した、高品質で安全・安心な食品を通じて、心身ともに健やかで、豊かな生活を送ってほしいという願いが込められています。私たちはこの理念のもと、栄養・健康・ウエルネスのリーダー企業を目指して、日々事業活動をしています」(ネスレ日本広報室長・嘉納未來さん)
おいしく栄養のあるものをとり、体が健康になるだけではなく、心や生活が健やかな状態“ウエルネス”を作るために、さまざまな製品や情報、サービスを提供していく。そのため、飲料・食品事業だけでなく、ペットケア、医療機関・介護施設向け栄養補助食品、医薬品など、さまざまなカテゴリーの製品を、世界100カ国以上で展開するグローバル企業として成長を続けています。
栄養・健康への思いは創業当時から受け継がれる
ネスレ創業当時に製造された乳児用乳製品
大正初期の「ネスレ特約店会」
ネスレの創業はふたつの会社から始まります。ひとつは1866年に創業し、ヨーロッパ初の練乳生産をスタートしたアングロ・スイス練乳会社。もうひとつは、ネスレの創業者であるアンリ・ネスレが1867年に立ち上げた、乳児用の乳製品を製造販売する会社です。この二社が1905年に合併し、ネスレ・アングロ・スイス練乳会社が設立されました。
「その当時、ヨーロッパでは栄養不足による乳児の死亡率が非常に高く、それを嘆いたアンリ・ネスレが、乳児用のシリアルを製造販売したところから私どもの歴史が始まっています。現在のネスレグループが謳う、栄養・健康・ウエルネスという三つのキーワードのうち、栄養は、じつは創業当時から受け継がれてきたものなのです」(嘉納さん)
その8年後の1913年、英国ロンドンの極東輸出部の管轄で横浜に日本支店が開設されました。これがネスレ日本の始まりで す。当時は乳製品の輸入販売が中心でしたが、53年、コーヒーの輸入が再開されたのをきっかけに、ネスカフェの輸入販売が開始されます。
現在、ネスレ日本では、コーヒーのネスカフェを始め、食品、チョコレート、クリーマー、ペットケア、栄養補助食品など幅広い製品を扱っていますが、その中でもネスカフェは、50年も愛され続ける息の長いブランドです。
信頼される栄養・健康・ウエルネス企業を目指して
健康や若々しさを保つのに大切な働きをするポリフェノールは、コーヒーにも豊富に 含まれています。ネスレでは、バランスのとれた食事とネスカフェでポリフェノールを賢くとることを提案する「ネスカフェ&ヘルシーライフ」キャンペーンを行っています
品質管理でも重要なのが官能検査です。機械では測定することはできない部分まで精査します。人間の舌、感覚が一番敏感なのです
栄養・健康・ウエルネスのリーダー企業を目指し、ネスレ日本では『社員』『製品』『コミュニケーション』という三分野で取り組みを行っています。
『社員』の分野では、社員教育に力を入れています。お客様に栄養・健康に関する適切な情報を発信し、製品開発をするにあたって、自分自身が健康であり、栄養についての情報を学んでおかなければならないというコンセプトで、07年から、全世界で同じ教材を使い「栄養研修」を行っています。
「運動や調理実習の時間も設けています。エアロビクスで汗をかいたり、野菜たっぷりのカレーを作ったり、実際に体や手を動かすことが、栄養、健康を学ぶうえではとても大切なのです。日本では昨年9月までに、社長以下社員全員が研修を終え、今はフォローアップをしながら勉強を続けているところです」(嘉納さん)
『製品』の分野では、栄養面から製品を評価するための指標を設けています。製品カテゴリーごとに、摂り過ぎが社会問題化しているエネルギー、塩分、糖類など栄養素の基準が細かく定められています。
「WHOの基準を参考に、ネスレ独自の指標を設けています。また、その国々の基準を考慮しながら、常に、基準の厳しい方を採用しています」(嘉納さん)
『コミュニケーション』の分野では、消費者との対話を大切にしています。ニュートリショナルコンパスという全世界共通のフォーマットのパッケージ表示や、ウエブサイト「ココロとカラダのバランスマガジン※1」などを通じて、消費者とのコミュニケーションをはかっています。
このような取り組みを続けながら、信頼される栄養・健康・ウエルネスのリーダー企業へと、ネスレは成長し続けているのです。
一杯のコーヒーを通して世界中に幸せを届けたい
ネスレは世界に449の工場をもっており、日本には三つの工場があります。今回訪問した島田工場は73年の操業で、日本で二番目に作られた工場です。
すぐ南を流れる大井川は川底に大量の伏流水を蓄えており、そのおかげで良質な水を豊富に得ることができます。
「コーヒー一杯の小さな幸せを世界中にお届けしたい。そう思いながら製品を作っているんですよ」(執行役員島田工場長・播摩光俊さん)
工場の立地や設備に関する簡単な説明の後、工場長は製品づくりに対するこだわりについて、そう口にしました。
「一杯のコーヒーを飲むのに約10分かかるとしましょう。短い時間ですが、ホッとする幸せなひと時です。一杯のネスカフェには約2グラムのコーヒーが入っています。250グラム入りのネスカフェ エクセラでしたら、100回の幸せを感じていただけるわけです。島田工場では一日12万本のネスカフェエクセラを製造していますので、一日1200万杯、1200万人の人を幸せにしている計算になります。東京都の人口とほぼ同じですね」(播摩工場長)
世界規模で計算すると、1秒間に4000杯のネスカフェが消費されているのだそうです。これだけ消費されている飲料・食品は、他に例がありません。1秒間に4000人が幸せになっている。そう考えるとわくわくしますね。
独自の品質マネジメントと改善活動で徹底する品質管理
「我々は製品を通して幸せを届ける『ハピネス・プロバイダー』でありたい」 と語る播摩工場長
品質はネスレの最重要事項の一つです。製品を製造する現場では、具体的にどのような形で実現されているのでしょうか。
「食品安全に関する規格ISO22000 を取得しました。これは島田工場だけでなく、世界のすべての工場で取得しています。そして、世界共通の社内品質基準である『ネスレ品質マネジメントシステム』と、NCE※2と呼ばれる改善活動を導入し、社員全員が高い品質意識をもって品質管理に取り組んでいます」(品質保証課・辻喜之さん)
ネスレ品質マネジメントシステムは、原料から出荷に至るすべての工程において細かく定められている基準で、すべての製品に適用して高い品質と安全性を確保しています。
NCEは工場における活動の要で、常により高いレベルの品質を目指し、さまざまな部分を「改善」していこうという取り組みです。
「NCEは『Delight Consumers(お客様の満足)』『DeliverCompetitive Advantage(競合品に対する優位性)』『Excel In Compliance(他社に先駆けたコンプライアンス)』という三つの柱からなっています」(辻さん)
工場では、お客様の満足のために、常にばらつきのない安定した品質の製品を作ることを心がけています。また、お客様からいただくご意見に対して、しっかりアクションを起こし、常に私たちも消費者の目線を持つことを意識しています。
製品を発売する前には、「60/40+」(シックスティ・フォーティ・プラス)と呼ばれる独自の製品評価プログラムに基づき、他社の競合品と比較テストを行い、優位性が認められない限り市場に出さないようにしています。この試験に合格するためには、ブラインドテストで6割以上の支持を得、かつ、栄養面で“プラス”の価値が認められなければなりません。非常に厳しい基準なのです。
そして、コンプライアンスに関しては、法令を遵守するだけでなく、ネスレ独自の基準やルール、各工場の細かいルールなどすべてを守って初めて、ネスレのコンプライアンスとなるという考え方で取り組んでいます。こうしたルールが守られているかどうか、定期的な内部監査を行い、検証しています。
「分かりやすい例として、PTest※3というものがあります。これは、春と秋に全世界の工場で同じサンプルを分析し、同じ数値が出るかどうかをチェックするんです。こういうことを続け、やるべきことがしっかり行われているかどうかをチェックしているのです」(辻さん)
祖先から受け継いだ環境を地域全体で守り次の世代へ
ネスレのビジネスは、農産物などを主原料とした飲料・食品産業です。豊かな食文化や食べ物の土台となる自然環境の保全活動にはとても力を入れています。
「ネスレの環境に関する考え方は、大きくわけてふたつあります。ひとつは『ケアリングの精神を環境にも導入したい』というもの、もうひとつは今ある資源、環境など『子ども達に豊かな自然を残したい』というものです。環境というものは、わたしたちの祖先から受け継いだものではなく、私たちの子孫から預かっているものであるという考え方なんです」(島田工場工務課・長澤央雄さん)
一連の環境活動の根幹をなすのが、ネスレ独自の環境マネジメントシステム、NEMS※4です。これはISO 14001 に、独自の要求基準をプラスした環境マネジメントシステムで、ネスレではこれにそって、各職場から全員参加で環境活動を進めています。
「我々は常に、地域社会にできることはないかと考え活動しています。島田工場では、大井川水系の水環境を守っていくということが、これからも大事だと考えています。そこで、近隣の企業などにも、ネスレで培った技術やノウハウを伝え、地域の企業全体で水を守っていこうと、島田市を通して、無償で相談、助言を行っていく取り組みをしています」(長澤さん)
企業の枠を超え、社会とともに価値を共有するこの考え方は、ネスレが進化したCSRとして掲げる「共通価値の創造」という考え方に根ざしています。
製品づくりのために原材料を提供してくれる生産者、製品を手に取ってくれる消費者、工場周辺の地域社会
など、関係するすべての人々のために価値を創造し共有していこうという考え方です。今回の取材では、品質管理の徹底や、環境問題に対する姿勢だけでなく、企業のあり方や考え方そのものが、現場のすみずみにまで 浸透していることの素晴らしさを実感しました。
水分を大量に含んだものを燃焼させることができる流動床ボイラー。抽出後のコーヒーかすを燃焼させ、100%エネルギーとして再利用します。完全燃焼させることで、コーヒーかすは100 分の1 以下の量に減少。大幅な廃棄物削減です
メタン発酵排水処理施設では、蒸気を一切使用せずに排水処理ができます。それに伴いCO2 排出量を12%も削減することができました。また、メタン発酵により発生するバイオガスも、ボイラーの補助燃料として省エネに役立っています
天然ガスを使って電気と蒸気と冷水の三つを作るコージェネレーションシステム。エネルギー効率は非常に高く、通常79.2%、max88.2%と、エネルギーの無駄を極限まで削減します
ネスレ日本では、富士山清掃活動や田子の浦清掃活動など、地域や自治体が主催する環境保全活動へのボランティアに積極的に参加し、社会貢献に取り組んでいます
「環境に取り組むのは当たり前のこと。だからネスレではそのことを特段PRしないんです」と語る長澤さん
ネスレ日本株式会社 島田工場
所在地:静岡県島田市細島字
操業:1973 年
ネスレ日本株式会社
所在地:兵庫県神戸市中央区
創業:1913 年
探訪後記
目覚めの一杯から始まり、食後の一杯、原稿を書く手が進まないときの一杯、放送が終わってホッと一息つく一杯。私は一日に何杯コーヒーを飲むか分かりません。工場長がおっしゃるようにコーヒーというのは誰にでも「10 分間の幸せ」を手軽に与えてくれます。多くの人に小さな幸せを日々送り続けるお仕事ってステキだなと思いました。私にとっては気分のオン・オフのスイッチにもなっているコーヒー、頼りになる存在です。
内藤聡子
内藤聡子 気象予報士。報道番組を中心に、各種イベント司会やCMなど多方面で活躍。現在BSジャパン「カツケン勝間数代経済研究所」にレギュラー出演中。
(撮影/コサイ ワジュン)















