FOCUS/ソフトドリンク・レビュー
地サイダーの変遷と市場動向
中小飲料メーカーの強みを活かし地域と連動した活動で息の長い成長を目指す

レトロなデザインや地域限定でしか買えないレア度が人気を博し、今では100 種類を超えるアイテムが市場に出回っているといわれる地サイダー。
地域の特産物のフレーバーや地元の名水を使ったり、その土地の歴史を感じさせるパッケージを採用したり、おいしさや地域性へのこだわりも支持され、年々売り上げを伸ばしています。
今回は地サイダーの歴史や今後の市場動向について、清飲記者会の久保喜寛さんにご執筆いただきました。
※清飲記者会は清涼飲料の業界紙11社で構成される記者会です
100種類を超えるアイテムが登場 拡大する地サイダー市場
近年注目を集めている地サイダーは、大手企業による大規模なマーケティングが展開される清涼飲料市場の中にあって静かなブームが続いている。2005年(平成17年)ごろからブームとなり、09年(平成21年)に入っても引き続き話題を集めている。北海道、沖縄といった地域限定に加え、大手メーカーの透明炭酸とは異なる味覚のバリエーションは、小ロット多品種生産を武器とする中小飲料メーカーの強みを発揮できるアイテムだ。
市場には、100種類を超えるアイテムが登場していると推定されており、地域イベントとの連動やネット販売の普及で、年々規模を拡大している。
また、流通からの期待も高く、夏場のフェアなどに採用され、日本の最大消費地の首都圏でも認知が広がっている状況だ。
今後も、サイダーの製造を得意とする中小飲料メーカーにとって、“地域”を核とした独自の商品企画力・発想力を活かした個性的な新アイテムが登場すると見込まれており、サイダーの新機軸としてさらに注目を集めそうだ。
「サイダー」の名前の由来はリンゴのお酒「シードル」から
サイダーはシードルともいい、そもそもは「リンゴのお酒」を指すと言われている。本来透明な炭酸飲料はソーダといい、サイダーフレーバーエッセンスを輸入して、香りをつくったことから「サイダー」という名前が付いた。
1881年(明治14年)、宮内省が英国人理学者W・ガランに国内各地の名水の調査を依頼。兵庫県多田村平野から涌き出る炭酸を含んだ源泉を「理想的飲料鉱泉なり」と分析した。1884年(明治17年)に多田村平野から湧き出た炭酸水をびん詰めしたものが、「三ツ矢」ブランドのもととなる「平野水」として製造、販売されたことが始まりと言われている。本格的な商業生産は、1907年(明治40年)に「三ツ矢印」の「平野シャンペンサイダー」(後の「三ツ矢サイダー」)、1909年(明治42年)「リボンシトロン」、1928年(昭和3年)「キリンレモン」あたりから。これらにあわせて、地場の飲料メーカーがそれぞれのサイダーを製造していった。
レトロブームを機に地サイダーの復活へ
炭酸が主流だった清涼飲料市場は、コーヒー飲料、スポーツドリンク、茶系飲料などのカテゴリーが誕生し、拡大していく中で、1975年(昭和50年)以降、炭酸飲料の構成比は緩やかな減少傾向を歩む。加えて、大手が売上げを伸ばす一方で、中小飲料の地場産業であったサイダーなどは苦戦を強いられることとなった。
そのような状況下で、中小の飲料各社は、市場環境の変化に対応し、業務用に特化した製品展開や、オリジナル性を発揮した商品開発など、多品種少量生産といった中小飲料メーカーにしかできない事業展開に着手し、新たなチャレンジを開始した。
具体例として、05年に佐賀県の友桝飲料が開発したガラナ飲料「こどもびいる」がその代表格で、現代センスに対応する懐古的なデザインと効果的なグッズ展開で幅広い世代での人気を獲得、独自の世界観を確立するまでに至った。「こどもびいる」の成功を契機に、同社では戦前から生産していた「スワンサイダー」の復活を図ったことが、現在の地サイダーの火付け役となった。
ご当地商品として注目度アップ ここ数年は開発ラッシュ
中小飲料メーカーは、商品開発にあたって、地域の料飲店、観光関連の企業などとのタイアップで製造していた。その中で地域に基盤を築き、独自の得意分野を持つ企業が特徴を生かし、地サイダーや地ドリンクの開発を推進してきた。当初の販売先は、地域の自治体が行う祭事や展示会、お土産店などが中心で、地元のオンリーワン商材として、地域の人から支持を受けていた。それが懐かしさやレトロブームなどの影響で、都市部の百貨店などが行う地域フェアなどにも取り上げられるようになり、地名を冠した“ご当地商品”として、徐々に認知を拡大させてきた。 また、大手のバラエティーグッズショップなどで専用ブースが設けられるなど、にわかに注目度が向上。インターネットの普及による口コミも大きく寄与したと言われている。話題となるにつれ、復刻や新しい地サイダーを開発する企業が相次ぎ、本格的に盛り上がり始めた。09年では100種類以上のアイテムが存在していると言われている。
懐かしいだけじゃない!地サイダーのこだわり
懐かしさやレトロ感といった情緒的なニーズだけでなく、味覚、容器、ラベルなど商品にこだわりが詰まっているということも、地サイダーが支持される大きな要因だ。例えば、サイダー特有の味覚設計に各地域の特産物をフレーバーとして使用することで、独特の風味に仕上げている。またパッケージのラベルデザインに、地域での歴史や特産物などのストーリーを採用することで、より地域性を打ち出していることも人気のひとつだといえる。
さらに、昨今のミネラルウオーターの需要増の影響で、製品に使われる水にも関心が高まっていることから、多くの地サイダーがベースとなる水を地元の湧水や名水を使用していることも有利に働いている。一部で進められているリターナブルびんの導入という地球環境にも配慮した取り組みや、消費者の安全・安心ニーズにも対応していることが地サイダーの評価を高めている要因のひとつだ。これらのこだわりが、幅広い年齢層から支持を受け、市場での存在感を現している。
特産物、観光、歴史をアピール 地域と連動した活動
地サイダーの定義は「地域の特産物、観光、歴史などを炭酸飲料でアピールする商品」と位置づけられていることから、地域とのつながりは強い。全国清涼飲料工業会が把握している地サイダーの地域別事業者数を見ると、北海道・東北20、関東7、東海・中部12、近畿9、中・四国6、九州18と水や地場の特産品が豊富な東北や九州での商品開発が活発に行われている。中でも東北地方では、サイダーを飲む習慣が根強いようだ。
発売している商品の中には、ふるさとの産業振興に貢献したとして、表彰を受けているものもある。代表例として「温泉(うんぜん)レモネード」(雲仙旅館ホテル協同組合)が長崎県の特産品新作展の奨励賞を、「オリーブサイダー」(谷元商会)が県産品コンクールの知事賞を受賞している。地サイダーの開発は、お土産物や観光名物としての役割だけでなく、新しい特産品の掘り起こしや地域の活性化に寄与しているようだ。
10年後にも支持される商品に 地サイダーの将来
サイダーならではの“おいしさ、爽やかさ”に加え、“楽しさ、懐かしさ、珍しさ”のあるユニークなアイテムが登場し、盛り上がりを見せる地サイダーだが、商品の乱発に危惧する声もある。ストーリー性をもった商品戦略で地元の人だけでなく、観光客など多くの消費者を魅了し、売場も話題が集まるとともに全国へと拡大しているが、基本は地産地消型の商品。「毎年安定した販売数を確保していくことが大事で、10年後にもしっかりとそのエリアで支持される商品として製品化・育成していかなければならない」(メーカー関係者)。
地サイダーの登場は、中小飲料メーカーがこれまで取り組んできた“ 地域を基盤とした事業”の成果であるだけに、中長期的な視野で息の長い成長が求められている。
(久保喜寛)
TV・雑誌などマスコミへの露出も増え、地サイダーの認知度は高くなってきている。書店にはこうした単行本も並ぶ。 『地サイダー読本』(レトロモダン飲料愛好会著・春日出版)
2007年2月に開かれた第38回長崎県特産品新作展で奨励賞を受賞した「温泉レモネード」
全清飲発行の『地サイダー&地ドリンクガイドブック』。日本全国66銘柄の地サイダー&地ドリンクをオールカラー写真付きで紹介している
地域ブランドづくりを応援するイトーヨーカドーの地産地消フェア。さまざまな地方ショップが出店する。地サイダーのブースも人気
地サイダーの品種数の推移(社)全国清涼飲料工業会:中小企業部調べ













