清涼飲料の文化史
食文化史研究家・西武文理大学客員教授
永山久夫
寝苦しい夜には むぎ湯[江戸時代の清涼飲料水]
江戸の夏の夜は、外の方が涼しい風が吹き抜けていくため、人々は寝苦しい家をさけて、よく出歩いた。
江戸の町は堀川が多く、川端には緑の濃いヤナギが植えられていて、涼感をいっそうさそう。宵っ張りで夜遊びの好きな江戸ッ子に人気があったのがむぎ湯。
涼しい風の通り抜ける川の近くに、ぼーっと浮かんでいるのが「むぎゆ」と太々と書かれた行燈で、むぎ湯を売る店。店には浴衣の模様も仇っぽく着こなした女性が接客する場合が多く、これが人気に拍車をかけた。
行燈の下にはむぎ湯の釜や茶碗があり、そのまわりには涼み台が置いてある。炒った大麦を煮出し、井戸水などで冷たくしたものであるが、麦自体にかすかな甘味があり、こうばしさと共に寝苦しい夜には魅力だった。のちになると、砂糖のたっぷり入った甘いむぎ湯も出現する。
江戸ッ子は疫病に対する用心が強く、夏でも甘酒のように熱い飲み物か、むぎ湯のように沸騰させてから冷たくしたドリンクを好んだ。むぎ湯を飲むと暑気あたりにならないともいわれた。暑気あたりは暑さ疲れのことで、むぎ湯にはビタミンB1が含まれているからその効果があったのかもしれない。
イラスト:中川 学













