REPORT-10/中村まりの企業探訪
三田飲料(株)八王子工場
『我が子に食べさせ、飲ませるように』
創業以来の「品質第一」と半歩先に進んだ製品開発
「我が子の口に、入れるとしたら」を合言葉に世界の果物を使った飲料を世に送り出してきた三田飲料(株)。業界でも高い評価を受けている製品開発や品質管理についてお話をうかがいました。
製品の品質を常にベストに保てるよう、三田飲料の製品はすべてここ八王子工場で製造しています。ラインも紙パック、PET、びん、アルミパウチなどさまざま。お客様のニーズに合わせ多品種・小ロットに対応できるよう生産体制を整えています
丁稚奉公の経験から生まれた製品や社員へのひたむきな思い
三田米蔵商店として渋谷に創業した当時の写真。そのころの渋谷は茶畑に囲まれた小さな町でした
今回訪問するのは東京渋谷で創業85年を迎える三田飲料株式会社さん(以下三田飲料)。外食産業向けにジュースやカクテル割材を生産している飲料メーカーとしては最大手で、多品種小ロット生産を業界でもいち早く導入した企業です。また、日本初の紙容器入りジュースや、世界初の3カ月間常温保存可能な 100%イタリアンブラッドオレンジジュースなど、革新的な製品を次々と世に送り出していることでも知られています。「創業者である祖父も、先代の父も、そしてわたしも変わり者。とにかく他人のやらないことをやるのが好きなんです」
と笑うのは三田大介社長。しかし、その製品づくりには「品質第一」という徹底したポリシーがありました。
三田飲料の企業理念は『我が子に食べさせ、飲ませるように』。「我が子の口に、入れるとしたら」を合言葉に、自分の子供に安心して食べさせることができるような安全な製品を心をこめて作っていこう、という思いを1924年の創業以来ずっと受け継いできました。その企業理念のルーツは、創業者・三田米蔵の丁稚奉公時代の経験にあったのだそうです。
米蔵は、若いころ墨田区本所にある商店に丁稚として働きに出ていました。その当時の丁稚奉公は上下関係がとても厳しく、食事ひとつをとっても、丁稚は主人の家族や上の者が食べ終わったあと、台所の脇で慌ただしい食事をしていたようです。こうした経験を通じて米蔵は、「自分が店をもったら丁稚とも自分の家族と同じようにわけへだてなくつきあおう」と思うようになりました。そして、店に並べる製品に対しても、自分や自分の家族が安心して口にできるようなものを、責任をもって作ろうと考えるようになったのです。
『我が子に食べさせ、飲ませるように』——この企業理念は、店を構えるずっと前から創業者が思い描いていた夢でした。
新しい製品、新しい容器他人のやらないことに挑戦
創業者も先代も他人のやらないことにチャレンジしてきました。「常に三田飲料らしいユニークな製品を展開していきたい」と三田社長
三田飲料の製品開発は「お客様に喜んでもらえる、他人のやらないことをやりたい」というチャレンジ精神にあふれています。1962年、三田飲料は時代に先駆けて「無添加純正リンゴジュース」の製造を開始しました。
当時、リンゴジュースといえば家でお母さんが果物のリンゴをすりおろし搾って作るものでしたが、それを製品化するにはいくつもの壁がありました。しかし、今までにない製品を生み出したい、他人のやらないことをやりたいという一心で何度も試行錯誤や研究を重ね、いつでもどこでもお母さんの搾りたての味が飲めるリンゴジュースが完成したのです。
三田飲料のチャレンジ精神は、製品開発だけでなく新しい飲料容器を日本に広めるのにも一役買っています。1973年、アメリカからゲーブルトップカートンシステムを導入し、日本で初めて紙パック入り清涼飲料の販売を開始したのです。
当時は、「飲料を紙に詰めるなんてナンセンスだ」など、周囲の反応は散々だったそうです。しかし、これは将来必ず、日本の新しい飲料マーケットに定着する、という強い確信のもと販売を続けた結果、紙パックはびんに変わる新しい容器として日本中に普及しました。
「このシステムを導入したことで流通がワンウェイ化し、以前は渋谷近辺にしかデリバリーできなかった製品を、全国に販売できるようになったのだそうです」(三田社長)。
軽く、びんと違って割れにくい紙パックは、非常に革新的な容器でした。それを清涼飲料の容器として採用した三田飲料は、紙パック以上に革新的な存在だったのでしょうね。
情報力・創造力・技術力
3つの力を活用した製品開発
「情報力」「創造力」「技術力」の3つを活かした製品開発が三田飲料の強みです。新しい製品開発に役立てるよう他部署とも常に情報交換をしあっているそうです
こうした三田飲料ならではの製品開発を支えているのが、「情報力」「創造力」「技術力」の3つなのだそうです。3つの力について三田社長にお話をうかがいました。
「わたしたちは半歩先を進んだ製品開発を目指しています。しかし、半歩先に製品をリリースするためには、2年以上先にどういうものが求められているかを見通す力が必要です」(三田社長)。
2年というのは素材の研究開発にかかる時間です。三田飲料のモットーは「品質第一」。安全・安心な製品を作るため、少しでも問題のある点を一つひとつクリアにしていくと、最低でも2年はかかるのだそうです。それだけ先を見通すために欠かせないのが、日頃の情報収集、「情報力」です。
「創造力も同じです。他人のものまねではなく、三田飲料らしい製品を展開していきたいと思っています。そのために、集めた情報を新しい製品開発へつなげられるよう心掛けています」(三田社長)。
3つめの「技術力」は、お客様の要望や発想を形にするのに必要な力です。いくらいいアイデアがあっても、それを形にする実力がなければ製品を作ることはできません。そのため、三田飲料では最新の生産設備やシステムづくりに日々取り組んでいるそうです。
「ただ、人間はすぐ楽をしたい、手を抜きたいと思ってしまうので、常に高いモチベーションを保ち続けようとする意識が必要です。技術力というのはいい機械を入れることではなく、それを使う人間の意識の高さなのです」(三田社長)。
三田飲料のものづくりに対する姿勢がとてもよくわかりました。
仕込みはすべて手作業
原料を広げて人の目でチェック
安全・安心な製品を作るため、人の目と機械でさまざまなチェックを重ねます。ただマニュアルどおりに検査をするのではなく、品質をより一層向上させていけるよう、一人ひとりが常に高い意識をもって品質管理にのぞみます
三田飲料では具体的にどのような品質管理をしているのでしょう。八王子工場で現場の品質管理についてお話をうかがいました。
「『我が子の口に、入れるとしたら』という言葉は、わたしたち工場スタッフのキーワードでもあり、常にその言葉を思い浮かべるようにしています」(製品開発保証グループ・ゼネラルマネージャー 田村貴起さん)。
製造ラインには4〜5人のスタッフが常駐し、原料の仕込みや殺菌温度の管理など、要所要所を人の目でチェックします。
「原料の仕込みは一品一品広げて手作業で確認します。農産物が原料ですから、小さなヘタのかけらなど果実由来の夾雑物が残っていることもあります。特に品質に問題のない物であっても、お客様の安心につながるのであれば、すべて取り除こうというのが工場のスタンスです」(田村GM)。
大変な作業ですが、三田飲料の主力製品である濃厚な果肉入りジュースを作る場合、容器に詰めてしまってからでは中に何が入っているかわからなくなってしまうのです。ベテランのスタッフだと、顕微鏡で見ないと確認できないレベルのものまでピックアップできるんだそうですよ。すごいですね。
こうして手間をかけて、ていねいに安全を確認することで、作り手も安心して自分たちの製品をお客様に届けることができるわけですね。
田村GM に工場内を案内していただきました。原料果汁が充填されていく仕組みや、味を損ねず品質を保つための、厳しい殺菌温度管理などについてお話をうかがいました
自発的な「QCサークル」活動で社員の意識も品質管理も向上
「どんなに小さな意見でも、現場の状況、現場の人間の思いに気付かせてくれる貴重な意見」と田村GM
八王子工場では、5S(整理・整頓・清潔・清掃・しつけ)の強化にも取り組んでいます。たとえば工場の監査なども、品質管理の人間と現場のスタッフが一緒にチームを組んで工場を回り、自分たちで自分たちの悪いところをチェックしています。八王子工場は3年前にISO9001を取得しましたが、ただISOの規格にのっとるのではなく、それ以上のことを三田飲料なりに考えようと、もとよりあった5SなどもISO9001のなかに取り込んでます。その結果、スタッフの品質管理に対する意識が以前に増して高くなってきたのだそうです。
QCサークルという活動も、八王子工場ならではの取り組みです。QCとはQuality Controlの略で、就業時間のあと有志のスタッフが自主的に集まり、工場の品質管理に関する意見交換をしあうものです。参加は任意で、役職に関係なく現場の意見を自由に出し合います。
「これはかなり効果が高く、貴重な意見がたくさんあがってきています。やはり、現場でないと気付かないことがたくさんあるんですね。自分の声が会社に反映されるようになったことで、現場のモチベーションもあがり、さらに新しい意見を言ってくれるようになる。とてもいい流れになっています」(田村GM)。
社員の声にきちんと耳を傾けることで、社員の意識も高まり工場全体の品質管理体制も向上していく。素晴らしいですね。
これからは安全・安心にグローバルな視点が必要
イタリアンブラッドオレンジは酸化による変色が激しく、かつて製品化は無理とされていましたが、長年培った果物の加工技術や研究開発により、1996 年、世界で初めて常温保存可能な100%ジュースの製造に成功しました
海外向けの製品も展開しています。日本で有名な会社でも海外では無名。まずは手にとってもらえるような製品づくりが肝心です。業務用ですがパッケージやパンフレットのデザインにも力を入れています
地下水の涵養を図り樹木の補水や湧水を復活させる「雨水浸透ます」を倉庫に設置するなど、地球温暖化対策にも積極的に取り組んでいるそうです
香港、ニューヨークにオフィスを開設し、海外にも目を向けている三田飲料。海外展開も含め、今後の展望についておうかがいしました。
「海外オフィスは販売拠点ではなく、じつは情報収集の拠点なんです」(三田社長)。
最近はインターネットなどでさまざまな情報が手に入れられるようになりましたが、それらの整合性はあまり取れていないのが現実です。情報の真偽を見極め、現地に行かなければ入手できない情報を集める。海外オフィスを開設したのはそのためなのだそうです。
これからは製品開発だけでなく、安全・安心についてもグローバルな視点をもたなければならないと三田社長は続けます。
「食の安全に関する日本の基準は、世界の中でも特殊です。諸外国と比べて非常に厳しいように思われるかもしれませんが、日本では認められていても外国では認められていない添加物などもかなりあるんです。ですから、海外に目を向けバランスをとりながら、どういったスタンスで製品づくりや安全・安心に取り組めばよいか、グローバルな視点で考えていかなければならないと思います」(三田社長)。
こうした企業レベルの取り組みが、やがて業界の垣根を越え、国全体で本当の安全・安心とはどういうものなのかを改めて検討しようという動きにつながっていくとよいですね。
大切なのは、「常にお客様の立場に立った製品づくり」を肝に銘じていくことだと三田社長は言います。いつの時代にもお客様にとってなくてはならない存在であり続けたいという思い。そのために、これからもずっと、お客様に喜んでもらい、長いおつきあいのできる製品を作っていくということですね。お客様や原料メーカーさんのところに行って話を聞くことを何よりも楽しみにしていらっしゃる三田社長、「我が子の口に、入れるとしたら」の一言を胸に、今日も世界中を飛び回っています。
■製品開発保証グループシニアマネージャー
製品開発担当 佐々木尚志さん
「製品開発において『スピード』を一番意識しています。多様化し、日々変化しているお客様のニーズに応えるために、お客様が“いま”抱いているイメージや欲求を、“いま”具現化してお届けしたいと考えています。スピーディーな対応によってお客様が我々との距離を近いと思ってくれれば、そこには安心感や信頼感、期待感が生まれると思っています」
■製品開発保証グループマネージャー
品質保証担当 大西直樹さん
「我々の製品は業務用が中心ですので、直接消費していただくお客様との接点がほとんどございません。直接お会いすることの出来ないお客様だからこそ『我が子に食べさせ、飲ませるように』という基本理念に基づいた品質管理に取り組んでおります。常に安全で安心な製品を提供するために固定概念にとらわれず、原材料・製造工程・製品の品質及び情報について検証し改善することを心がけております」
07年、情報収集の拠点としてニューヨークオフィスを開設しました。現地に行って現地の人と話すからこそ得られる情報があります
三田飲料株式会社 八王子倉庫
所在地:(本社)東京都渋谷区渋谷
(八王子工場)東京都八王子市川口町
創業:1924 年
探訪後記
品質管理の基準が「我が子の口に、入れるとしたら」だというお話には感動しました。原材料を手作業でチェックしたり、仕事が終わった後で作業環境や製品をより良くするために話し合ったりするのは、とても大変なことだと思いますが、だからこそ自信をもって製品を提供できるのですね。 三田飲料さんの製品ひとつひとつが努力の結晶だと思って、これからはありがたくいただきたいと思います。
中村まり
中村まり 「めざましテレビ」など情報番組のリポーターや各種企業のCM キャラクターを務める。持ち前の好奇心と行動力を活かし、現在TV・ラジオなどのリポーター、キャスターとして活躍中。













